京の華１号ものがたり

まぼろしの酒造好適米

「京の華１号」

「京の華」は高名な育種家である工藤吉郎兵衛翁が開発した酒米（酒造好適米）です。「亀の尾」直系の酒造米「酒の華」と兵庫県の酒造米「新山田穂」の交配により大正時代末（1920年代）に山形県庄内地方で生まれました。福島県会津地方でも会津の土地に合った酒造米として広く育成され、会津の清酒が飛躍的に成長した原動力を担いました。
昭和20年代〜30年代（1950年代）には栽培特性と米質の改善のため、福島県農業試験場で選抜育種が行われ、福島県オリジナルの品種として「京の華１号」が誕生しました。しかし同時期には大量生産と効率化を求める風潮の中、栽培が難しい上、生産性が低い「京の華」「京の華１号」は会津や庄内をはじめ全国から徐々に姿を消していきました。「京の華１号」は人々から忘れ去られ、まさに幻となったのです。

「京の華１号」の復活

「先輩たちが造り、育てた会津の米と酒を復活させ、この地に残していきたい」と辰泉酒造の前社長（現会長）の新城新次は昭和５５年（1980年）、福島県農業試験場にわずかに保存されていた「京の華１号」の種籾（たねもみ）を探し当て、栽培を開始しました。しかし、一度田地から消えてしまった米を育てるには、稲作に対する深い知識と経験が必要でした。その時、力強い協力者が現れます。地元会津のベテラン農業家、古川儀一さん（故人）、斉藤徳美さん、弓田隆雄さんです。三人は社長の思いに共感し、米造りを引き受けてくれたのです。「京の華１号」は草丈が一般的な稲より高いため、いかに倒さずに栽培するかが鍵となりました。そしてついに、４年後の昭和５９年（1984年）、わずか200グラムだった種籾が、酒が造れるほどの収穫量にまで達したのでした。幻の米「京の華１号」が30年以上ぶりに復活したのです。

「純米大吟醸京の華」の誕生

福新城新次と杜氏晴山成志はさっそく酒造りに取り掛かりました。試行錯誤の末、「京の華１号」は低温仕込みでも米が良く溶け出し、独特のまろやかさと旨みが出てくる事が解ってきました。こうして、「京の華１号」と会津の自然水のみを原料とし、低温長期もろみ（10～11℃で30～32日）で熟成させた酒が完成しました。さわやかな果物のような吟醸香があり、口に含むとスッキリとした中にまろやかで味わい深い米の旨みが広がる。そしてトロリとした触感が余韻として残る。昭和６０年（1985年）、「純米大吟醸　京の華」誕生したのでした。

変わらぬ情熱と挑戦

まぼろしの米「京の華１号」を復活させ、新しい伝統の酒「京の華」を造り始めてから２０数年。平成１９年と令和３年に「大吟醸京の華」が全国新酒鑑評会にて金賞を受賞いたしました。会津の地に育った「京の華」がついに全国に認められるまでになったのです。しかし、米造りにも酒造りにも、これで完璧という言葉は存在しません。農業家弓田隆雄さんと後継者の秀一さんは今も変わらぬ情熱を持って酒造米「京の華１号」を育てています。晴山杜氏の技を引き継ぎ発展させた、新しい酒造りも続きます。これからも辰泉酒造は「地元会津産米を生かし、最高の日本酒を造る」事に挑戦していきます。

京の華１号ものがたり

まぼろしの酒造好適米